「大丈夫だ、空。あたしはあんたしか見えていない。今、不安か? 不安にさせたか? 不安にさせたよな? なら、詫びとして一晩ゆーっくり不安を取り除いてやる。安心しろ、あたしが撒いた種だ。一晩と言わず、二晩でも三晩でも不安を取り除いてやるから、な?」
「わぁあ先輩、そんな甘い声で囁かれると……めっちゃくちゃ身の危険を感じるっす! 現に今、俺の腰をお触りお触りしていたでしょ!」
「空の腰は触り甲斐があるからな。ついつい、なっ!」
世界が半回転。
膝かっくんをされた俺のバランスが崩れて、後ろに重心が傾く。
サッと先輩が片手を背中に回してくれたから、床に激突することはなくなったけど、こ、この格好は。
図体のでかい馬鹿後輩が、背の低い美人先輩に支えられているという、あらら、よく恋愛ドラマでありそうなワンシーン。
普通だったら俺が先輩を支えるであろう場面なのに……チクショウ、こんなところにまできて、おにゃのこのポジションかよ俺!
男としての自尊心がズッタズタになりそうなんだけどっ!
いやもう、半分くらいはズッタズタだけど!
今に始まったことじゃないけど、嗚呼、カッコワルイぞ俺。
とにかくこの体勢をどうにかしないと……周囲の白眼視が飛んできそうでとんでき「空」満目一杯に広がる先輩の綻びに俺の動きが止まった。
「悪いな空。あんたが不安を抱いても、あたしは簡単にあんたを手放せそうに無いんだ」
微かに先輩の瞳に宿る光が濁った気がした。
もしかして俺は、ちょっとだけ先輩の脆い部分に触れているのかも。そんな悲しそうな顔して欲しくない。
重力に従って垂れ下がる先輩の髪が俺の顔を擽ってくる。
瞬いた後、俺は微笑を返し「すみません」詫びを口にして目尻を下げた。
「さっきから俺、身分のことで先輩を気遣わせてばっかりっすね。服のこともそうですし、今のことだって。すみません。俺、大丈夫っす。だって俺は自分で決めて先輩の傍にいるって決めたんっすから。
そりゃ身分のことで、うーんって悩むこともありますけど結構勉強にもなるんっすよ。逆に俺が教えてあげられることだってあると思います」
「――そうか、そう言ってもらえると嬉しい」



