学食堂。

ショーウィンドウにて。


「なあなあ、エビくんエビくん。俺さ、すっごく迷っているんだけど。オムライス定食にすればいいと思うか? それともハンバーグ定食にすればいいと思うか?」


「空くん。歓喜に心躍らせる気持ちは察するけど、まず僕のことをエビくんと呼ぶのをやめてくれない? エビと同類になるじゃないか。
何が悲しくてキチン質の殻におおわれた生き物と同類にされなければいけないの。名前にエビなんて字。また似たような字。一つも無いのに」


黒縁眼鏡を押しながら俺に注意してきたのはエビくん。

本名、笹野ささの義樹よしき。通称エビくん。


なんでエビくんかというと話せば長いようで短いんだけど、おかずのない弁当を見た俺にエビくんがエビフライをくれたんだ。


まだ友人らしい会話すらしていなかったのにも関わらず、俺の悲惨な弁当を見たエビくんが「どうぞ」快くエビフライを恵んでくれた。

めちゃめちゃ嬉しかったから、その日から俺は笹野のことをエビくんと呼んでいるんだ。

エビくんは嫌がっているけど、俺的にこっちの方が呼びやすい。


「決まったか?」

「実はまだ決まってないんだなぁ。アジくん」


俺とエビくんに歩み寄って来たのはアジくん。

本名、本多ほんだ 照彦てるひこ。通称アジくん。


なんでアジかというと、エビくんで大方の察しはつくと思う。

アジくんもまたおかずのない悲惨な弁当の中身を覗き見して俺にアジフライを恵んでくれた。だからアジくん。

本多でもいいけどさ。


も、俺の中じゃアジくんで定着しているんだな、これが。


ちなみにエビくんとアジくんのコンビをフライト兄弟。

エビくんに「ライト兄弟的ノリで呼ぶな!」とツッコまれたけど、だってなぁ?

どっちもフライくれたし、俺的には気に入っているネーミングなんだ。


まだショーウィンドウに飾られているサンプルを眺めては迷っている俺を見て、アジくんは大袈裟に呆れてみせた。


「遅ぇって。早くしろよ。席取られちまうだろ?」

「ごめんごめん。でもこれは俺にとって初学食デビューなんだよ。父さんが、あの父さんがっ……俺に小遣いを。五百円っ、嬉しくて。嬉しくて」