「ッハ、噂は本当だったのか。鈴理」


アイスクリーム屋を出て、歩きながら次は何処へ行こうかと話し合っていた最中のこと。

蔑むような、呆れたようなハスキーボイスが俺達の背中に投げつけられた。

鈴理先輩の名前を紡いだ声の主を目で探すために首を動かす。


なにぶん休日で賑わう百貨店は人が多い。


声の主を探すのは一苦労するだろう、と、思ったのだけれど一般市民とは明らかに違うオーラを醸し出す美形男が数十メートル先で腰を手に当てていた。

なに、あの美形男。

背景に薔薇が咲きそうなほど美形なんだけど。


容姿端麗で、鼻筋がすーっと通っている。

しかも、うちの学校と同じ制服を身に纏っている。


ネームプレートカラーで先輩の同級生なのかな、とおおよその判断はつく。


ついでと言っちゃなんだけど、見るからに金持ちそう。

そういうニオイっつーのか、プンプン漂ってくる。


俺と同族じゃないことだけは確かだ。


鈴理先輩も美形男を見つける。


一瞥するや、


「空。今度は雑貨を見よう」


完全に相手を無視。俺の手を引いて、せかせかと歩く。


えええっ、先輩、そこで無視?

無視するような方なんっすか?


じゃ、じゃあ俺もスルーした方が……うん、良くないっすよね。向こうの眼光の強さからして。


さっさと歩く彼女を止めるべく美形男、あー、Aさんと仮名をつけよう。

Aさんが俺達の前に回って鼻を鳴らす。


「庶民と付き合い始めたと聞いたが、本当に庶民と付き合っているなんてな。アタマ大丈夫か? 容姿も取り得も財力もなさそうな奴だが」


心を抉る三拍子を揃えなくてもいいじゃないか!

俺だって気にしているんだから!


……別に貧乏が恥ずかしいとか、微塵も思ってないけどさ。


Aさんの発言に片眉をつり上げた鈴理先輩は、


「あんたには関係ないだろう」


喧嘩口調で突っ返す。


「あたしの意中をあーだこーだ言う権利など、あんたにないだろ。ったく、相変わらず小さいことでグチグチ言う男だ。ケツの穴も小さいんじゃないか? 掘られてしまえ」


なっ……せ、先輩、なんて品のないことを!


仮にも貴方様はお嬢様ですよ!

身分を抜かしても貴方様っ、女の子ですよ!


……ほ、掘られてしまえって。深い意味は考えないようにするっすけど。