手伝うために後ろから彼女の欲しい本を取って、相手に差し出してやれば、彼女にめちゃめちゃ怒られた。
曰く、彼氏が彼女の本を取ってやる場面は恋愛では定番らしい。
「あたしより身長が高いなど言語道断なのだよ!」
地団太を踏んで悔しがる彼女は俺に縮めと無茶ぶりな命令をよこしてくる。
それは無理なので、俺は近場から本棚を取るための台を運び、彼女の前に置く。
これに乗れば身長が高くなると指さすと、
「あたしがそれで喜ぶとでも?」
腕を組むあたし様が不貞腐れたまま台に飛び乗る。
思いのほか喜ばれたようで、空を見下ろせると彼女は子供のように喜んだ。単純なお嬢様である。
「あ、先輩。ウサギさんっすよ」
横切ろうとした動物ショップでガラスケースに入っている耳を垂らしたウサギを見つけ、先輩を呼ぶ。
好奇心を宿した目でウサギを見つめるあたし様は可愛いと頬を崩した。
それに同意してやると、彼女は自分のようだと意味深長に呟く。
容姿のことを言っているのかと思いきや「ウサギは万年発情期らしい。あたしのようではないか」とのこと。
唖然とする俺の鼻先に口づけして、「な?」小悪魔に首を傾げてくる。
赤面したのは直後のこと。
俺達のやり取りを不思議そうにウサギが見つめていた。
こうして初デートを大いに楽しんでいた俺と鈴理先輩は、そろそろ時間も良い頃だろうと飲食フロアがある最上階までエレベータでのぼった。
幸いなことにこのエレベータは外の景色が見えない。
高所恐怖症でも普通に乗り込むことができた。
そういえば行く先々で、やけに大声で話し込む客たちがいたけれど……あれは何だったのだろう? 俺達にはまったく耳に入らなかったけどさ。
昼食はパスタになった。
鈴理先輩お勧めのパスタ店があるらしく、好き嫌いのない俺も異論はなかった。
「ごゆっくりどうぞ」
案内してくれた若い女店員さんに会釈し、テーブルに置かれたお冷に手を伸ばす。
百貨店内を歩き回っているだけなのに、足が疲れたな。人が多いせいかも。
「さ、空。飯を決めよう」
鈴理先輩にメニューを手渡されて、俺は早速中を開く。
パスタ、イタリア料理に用いるめん類のこと。
イタリア料理からきているだけあって“パスタ”という名前の響きを聞くだけでも、何だかお洒落だなぁ……と感じるのは俺だけだろうか。
ついでに店内もお洒落だ。



