前略、肉食お嬢様―ヒロインな俺はお嬢様のカノジョ―



思考はいつだって逆転カップルなんっすね。

微苦笑を零していると、


「ドキドキするな」


先輩が不意にこんなことを告げてきた。

目を丸くする俺に緊張しているのかと質問を投げれば、当たり前じゃないかと彼女。


「好きな奴とデートなのだ。緊張しないわけないのだよ」


柔和に綻ぶ先輩から視線をそらし、空いた手でぶっきら棒に後頭部を掻く。今のは反則だ。



百貨店に入ると、そこも人でごみごみ。ごみごみ。ごみごみ。

先輩の言葉を借りるなら目が回りそうだった。


ブランド店であろう化粧品店や鞄や財布が置いてある雑貨店を通り過ぎ、エスカレータで上の階へ。


昼時だから先に食事を済ませようか、と話していたのだけれど、あまりの人の多さに後回しとなった。



時間帯をずらしてゆっくり食事をしたいもんな。

早速行くあてがなくなったのだけれど、案内役を買って出ていたあたし様は俺を引き連れて一件の服屋へ。


ブランドくさいファッション店内でメンズ服を漁り始めた鈴理先輩は、手当たり次第に手に取って俺に当てていく。


彼女はきっと釣り合うかどうかを気にする俺の心情を察したのだろう。


「空は暖色が似合うな」


ワイシャツに淡い黄色のカーディガン。

ネクタイを締めて、ご満悦に服をコーディネートしていく。


似合うと連呼するあたし様が試着室の姿見を指さし、自慢のカノジョだと鼻高々に笑った。


カノジョじゃなくて彼氏なのだけれど。



俺の訂正も耳に入らないのか、鈴理先輩は今度服を買う時は自分を呼ぶよう命じた。


誰よりもお洒落にしてやるとあたし様、

「こうして並ぶとあたし達はすこぶるお似合いだな」

とても釣り合っていると俺に態度で示した。



着せ替え人形にされた後は、大手の書店に向かい、彼女から恋愛小説を読むよう勧められる。


「ケータイ小説でもいいし、純文学でもいい。とにかく恋愛小説を読め。漫画でもいい。カノジョとして知識を得ておくのだ!」


「か、カノジョとしての知識っすか」

「そうだ。例えば、そうだな……あの恋愛漫画とかお勧めだぞ」

高い本棚に手をのばし、ぷるぷるとつま先立ちをする鈴理先輩が一生懸命に漫画を取ろうとする。