前略、肉食お嬢様―ヒロインな俺はお嬢様のカノジョ―



それは何故?


鈴理の疑問に、久仁子は間を置いた。

小さく吐息をついて視線を投げ掛けてくる。


「鈴理さん、空さんから私たちの関係のことは?」

「彼から聞いています。お母さまは育ての親だとお伺いしております」


「そうですか。それも空さんから……鈴理さん。貴方は空さんから本当に信頼されているんですね。空さんは私達両親のことは勿論、他者に高所恐怖症のことを公言しない子なんです。誰にも言わないのは自分の過去や弱さに同情されたくないからでしょう。お友達にも簡単には公言しません」


それに自分がこの若さ。

夫共々若いがゆえに、どこかしら両親のことを隠したがる子供なのだと久仁子。


「鈴理さん、貴方に話しているということは……空さんは貴方のことを大きく信頼、そして好意を寄せている証拠なんですよ」


久仁子は鈴理に微笑み、そっと口を開く。


「空さんの高所恐怖症は、多分、目の前で親を失ってしまった恐怖からきているんだと思います」


鈴理は瞠目した。


目の前で両親を?

絶句する鈴理を余所に久仁子は語り部となる。


「空さんは五歳だったでしょうか。その日は日曜、空さんは両親と公園で遊ぶ予定でした。丁度、私達夫婦も食事の約束をしていたので両親の元に遊びに来ていました。

空さんの気が済むまで遊んだ後、五人で食事をしようと話を纏めていると、「まーだ?」焦れた空さんが駄々を捏ねてしまって。

両親と遊べることが楽しみで楽しみで仕方が無かったのでしょう。


早く行こうと駄々を捏ねて、仕舞いにはこっそりと先に公園へ行ってしまいました。


目と鼻の先に公園はあったのですが、子供一人を外に出すのは今の世の中物騒。

子供がいないことに気付いた私達は、急いで空さんの後を追ったんです。

私達の心配も余所に、空さんは横断歩道向こうの公園のジャングルジムで能天気に遊んでいました。

ひとりでキャイキャイ楽しみながら、ジャングルジムのてっぺんに上って、組み合った棒から棒に移っていました。

両親は文句を垂れていましたが、どことなく微笑ましそうに様子を見ていました。私達も微笑ましく見ていました。


だからまさかあの時、一変して地獄を目の当たりにするなんて思いもしませんでした」