「空さんの通っている学校は元お金持ち学校なので、空さんに窮屈な思いをさせているのではないかと、いつも夫と話しているんですよ。金銭面では文句も何も言わない息子ですから……お弁当も悲惨なものになってしまいがちですし。空さんには苦労掛けてばかりです。鈴理さんにもご苦労を掛けていませんか?」
確かに、初めて空と食事をした時、彼のお弁当はもやし炒めのみだった。
悲惨中の悲惨、だったかもしれない。
だけど、空は一度だって自分の取り巻く生活を卑下にしたことは無い。
それを知っているから鈴理は言うのだ。
「空は楽しんで毎日を過ごしていますよ」と。
「それに金銭面も、空はなんとも思っていないんだと思います。文句を言わないのではなく、なんともないと空は思っている。だから何も言わないんだと思います。あたしも身分は財閥の令嬢ですが、空の家庭事情でどうこうと思うつもりも、言うつもりもないんです。彼が好きだから傍にいるんです」
嘘偽り無い鈴理の言葉に、久仁子は心底安堵したようだった。
「なら良かった。空さん、学校生活を楽しんでいるんですね。こんなにも彼女さんに愛されて……母親として嬉しい限りです」
久仁子の表情に鈴理も微笑ましい気持ちを抱いて、繰り返し学校生活を楽しんでいると相槌を打った。
うやって和気藹々と会話していた鈴理だったが、ふと抱いていた疑念を思い出し、久仁子に尋ねた。
「空は二階に住んでいますが、大丈夫なのですか? 彼は確か極度の高所恐怖症だと」
「それは空さんから?」
やや久仁子は驚いた様子。
鈴理は深々と頷いて彼から聞いたと告白した。
「一階以上は駄目だと言っていたので、二階に住んでも大丈夫なのかと。建物内に階段があるから、どうにか上り下りは乗り越えられていると思うのですが」
窓などには近付けられないのでは?
鈴理の疑問に久仁子は肯定の答を返し、眠っている息子の顔を一瞥。
哀しそうに微笑を零した。
「私達も何度も引越しを考えたのですが、そんなのお金が勿体無いと空さんから反対にあって。自分で高所恐怖症を治すと言い張るものですから。
でもそう簡単には治せないと思うんです。一生、治せないかもしれません」



