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それは空がしんどいと言って気を失ってしまい、いそいそと介抱に勤しんでいた頃のこと。
介抱という名のいかがわしいスキンシップを終えた鈴理の元に、空の母親、豊福久仁子(とよふくくにこ)が現れた。
仕事を抜け出して空の様子を見に来たらしく、帰宅した彼女がまず鈴理に見せた表情は驚愕。
まさか訪問者がいるとは思わなかったのだろう。
しかもサングラスを掛けた男達が部屋の隅で待機している。
久仁子は不審者でも現れたのではないかと、さぞ肝を冷やしたことだろう。
だが久仁子は鈴理の姿をまじまじ見やり、介抱などの形跡を見て、
「空さんの彼女さんね」
一変して表情を崩してきた。
柔らかな表情とその優しい声に鈴理も笑みを零し、和気藹々と挨拶を交わした。
久仁子と空はまったく似ておらず、また彼女自身が非常に若い。
歳を聞けば、今年で34だという(彼は五つの時に両親を亡くしている。なら、彼女は23で彼を引き取ったのか)、二人の血縁関係の薄さを物語っている。
しかし何処となくだが雰囲気は似ているような気がした。
久仁子は息子からよく話を聞いている、と頭を下げて、お茶でも淹れるからと台所に立つ。
勝手に押し掛けたのはこっちだからと言ったのだが、久仁子はお構い無しに人数分の茶を淹れ、皆に配ると自分も一息いれるために、鈴理の隣に腰を下ろした。
「空さんに、こんな美人な彼女さんができるなんて夢のよう。空さん、鈴理さんに良くしてくれているでしょうか? この子は気が利くようで利かないところがあるので」
自分の攻めアタックに逃げられます。
早く息子さんを食べたい心情なのですが。
なんて口が裂けても言えず、鈴理は良くしてもらっていると答えた。
お世辞ではなく、それもまた正直な気持ちだったりするのだ。
昨日のようにデートに誘おうと気持ちを一杯いっぱいにしながら、一緒に帰ろうとテンパって……本当に空は可愛らしい。
そこがまた食べたい、なんて思ったり思わなかったり。
「そうですか」
久仁子は鈴理の返答を、まるで自分のことのように喜んだ。母親そのものの姿だった。
と、久仁子は恐る恐る尋ねてくる。息子は学校生活を楽しんでいるか、と。
何故、そんな質問を?
鈴理が目をキョトンとしていると久仁子は苦笑いを漏らした。



