シクシク泣いている鈴理先輩は、真っ白なハンカチを取り出すと悔しいとばかりに噛み引っ張っていた。
ああもうツッコむ元気もねぇや。
遠目を作って先輩を見つめていると、医者がお静かにとばかりに手を叩いた。
「これから診察を始めます」
その言葉に一同、口を閉ざして俺に大注目。
「空、心配は要らないぞ」
先輩に至っては俺を励ましてきてくれた。
「あたしがついている。何より、この医者はあたしの担当医で日本でも有名な名医なんだ。こいつならば安心してあんたを任せられる」
いえ寧ろ、来てもらった名医に申し訳ない。
本当にただの風邪なんだから……訂正する元気もない。
俺は励ましをくれる先輩に対して頷くことしかできなかった。
こうして、ただの風邪ごときの俺は日本でも名が挙がっている名医に診察してもらい(ほんっとに申し訳ない)、「風邪ですね」結果見え見えの診察結果をもらい(だから風邪だと言っているじゃないか)、無事にお薬をもらったとさ。
一連の騒動に俺はぐったり。
熱を測ってみれば9度まで上がっていた。やっぱり悪化していたよ、風邪。
こりゃさっさと薬を飲んで寝た方がいいな。
でも先輩が来てくれているのに寝るわけにもいかない。グラサン男達もまだいるし。医者は帰ったみたいだけど。
「先輩……何かお茶でも、ゲホッ」
上体を起こすと先輩が押し返した。
気を遣わなくても良い、微笑んでくる先輩は今から昼食を用意するからと言ってきてくれた。
そんな悪い気が、押し掛けて来ても先輩は一応お客様なのに。
何もないけどお茶くらいは出さないと失礼だろ。
しかも昼食の用意だなんて。
遠慮する俺に任せろと胸を叩く鈴理先輩。
「恋人の世話くらい焼かせろ。デートは残念だったが、こういう弱々しい、まさに押し倒しチャンスの恋人を看病するのも彼女の特権だろ?」
「ははっ。節々の不謹慎発言は聞かなかったことにします」



