前略、肉食お嬢様―ヒロインな俺はお嬢様のカノジョ―



梅かゆずか選ぶようグラサン男はやや強要してくる。

俺は仕方が無しにゆず味を貰った。

「あの」

気を取り直して、俺はグラサン男達に誰の差し金か聞こうと口を開く。


だけどその前にグラサン男の一人が、「お薬が見当たりません!」と大焦り。

「なんだって!」

飴をくれたグラサン男は大変だとばかりに血相を変えた。


「空さま、本日はどこの病院で診察を受けたのですか? 薬は頂かなかったのですか?」

「げほっ。病院……行っていないんです」


グラサン男の一人が出て行ってしまった。

でも直ぐに戻ってきた、大層立派そうな身形をした医者を連れてな。


医者はすぐに診察しましょう、と手を消毒し、聴診器やら金属ヘラやら取り出していた。

俺に発言権はないようだ。

何か言う前にグラサン男が今の容態やら熱の高さやら説明していた。



なんだか大袈裟なことになってきたぞ。

俺は単なる風邪なんだけど。



バタバタバタ。

金属階段を駆け上る足音が聞こえてきた。

これまたやぁな予感がしてきたんだけど。


こういう予感って大抵外れないんだよな。


ブルリと身震いする俺を余所に、玄関扉が力任せに開かれた。

ご近所迷惑な音を響かせて中に入って来たのは、学校にいる筈の鈴理先輩。

息を切らしている先輩の髪は乱れていた。


なんで貴方様が此処にいるんでしょうか。

学校は? 制服姿だから多分、学校に居たんだと思うんだけど……授業は4時限目あたりじゃないか。


仰天している俺に対し、「空!」先輩は俺の姿を見るや否やローファーをすっぽ脱いで駆け寄って来た。


「いてもたってもいられなくて押しかけてしまった。突然の訪問にすまないとは思っているが、あんたがあたしよりも先に風邪に犯されたと聞いて、嗚呼ッ、にっくき風邪菌め!」


「……先輩、漢字で書く風邪に“おかされた”は『侵された』って書くっす。間違ったって先輩の思うような漢字ではないっす」


「同じような意味ではないか。クッ、あたし達のデートを妬んで先に空を犯してしまうとは。憎い、風邪菌が憎い。何が悔しいかってあたしよりも先に空の体を犯したことだ。くそう、あたしへの宣戦布告か!」