大はしゃぎしている鈴理先輩はまんま子供だ。
そういえば鈴理先輩、女がリードするような小説が無いって言っていたな。
読んでみろとばかりに差し出されたノートを受け取り、俺は興奮している先輩を落ち着かせながら中身を開く。
「良かったっすね。でもどういう小説なんー……」
“鈴理は恥らう空の顎に指を掛け、不敵な笑みを浮かべながら耳元で囁いた。”
俺はにこやかに、一旦ノートを閉じた。
うん、今のはァ目の錯覚だァ。
そう目の錯覚。
今の一文、何も見ていない。読んでいない。理解していない。
動揺している気持ちを抑え、俺は再びノートを開いた。
“「好きにしていいって言った言葉に二言は?」”
“「ないっす。男に二言はないっす……だけど、不安もあるっす。鈴理先輩」”
“空の震える声に鈴理は気持ちを高揚させながら、彼の身を押し倒した。しごく強張っている体は緊張しているよう。それがまた鈴理の興奮を煽るのだ。”
も、もしかしなくてもこれは、お……、俺と……先輩の小説なんじゃ。
わりと最近よく見掛ける空という名前は多いとして、鈴理って名前はそう見掛けない。
「―っす」この口調は、まんま俺じゃないか!
俺は恐る恐るノートを閉じて表表紙に目を向けた。
『お嬢様と貧乏少年の恋①』と書かれている。
目の前が真っ白になりそうだった。
嗚呼、なんて小説の俺、女々しいんだ。
こんなにも俺は女々しい風に見られていたのだろうか。
だったら俺、本当にモロッコに行った方がいいのかもしれない。
性転換手術受けて、女になってきた方がいいかもしれない。
くらっとよろめいて壁に手を付く俺に対し、鈴理先輩はキャイキャイとはしゃぎながら「まだ連載中なんだ!」嬉々と説明してくれる。
「二人がリレーしながら小説を書いていたのは知っていたのだが、まさかこんな素敵な小説をプレゼントしてくれるとは! ①は丁度良いところで終わっているんだ。空とあたしが初エッチをし、濃厚な夜を過ごすところで! いやぁなかなか初ながら凄まじいものだった」
「嗚呼、小説の俺。食われちまったんだ。ドンマイ、小説の俺」
現実の俺は簡単には食われないからな。食われないよう逃げてみせるからな。



