アジくんが後ろを振り返ってななめ前に座っているエビくんに話し掛ける。
読書に勤しんでいたエビくんだけど、俺等の話は聴いていたみたいで首を縦に振った。
しおりを挟んで文庫本を閉じると、眼鏡をクイッと上げて微笑してくる。
「こういう時は男から誘ってみるものだよ、空くん。君、いっつも女のポジションは嫌だって嘆いているけど、それは君が受け身だから悪いんだよ。たまには行動しないと。受け身だからあーんなこともこーんなこともリードされて」
「う……受け身で悪かったな」
だって先輩の行動力が凄まじいんだぜ。
元々行動力のない俺にとって先輩のような相手だと、必然的に受け身になっちまうんだよ。
デートか。
誘ったら先輩、喜んでくれるかな。
先輩の喜ぶ姿は見たいな。
「頑張って誘ってみるよ」
おずおずと決意を口にすると、フライト兄弟は大きく溜息。二人揃って俺に指摘してくる。
「その決意表明じゃまんま女子だぞ。じょーし」
「空くん、もっと男らしく決意表明しないと。男のポジションに立ちたいんだろ?」
男らしく?
どういうものが男らしい決意表明なのだろう。
あれか、肉食系男子風に決意表明すりゃいいのか。
うーん、ワイルド風に決意表明ってことだよな。うーんっと。
「今日は俺から誘ってやる!」
途端にフライト兄弟が咳払い。
な、なんだよ! 俺的に男らしい決意表明なんだけど! 咳払いする意味が分かんねぇって!
二人をジトッと睨めば、「いやぁ……な」とアジくんが曖昧に笑い、「うん……ちょっとね」とエビくんが苦々しく笑ってくる。
はっきりしない二人に苛立ちを感じていると揃ってフライト兄弟は言う。
「なんだかなぁ、空が言うと意味合いが違って聞こえる」
「うん、卑猥っていうか。空くんがいつもヤられそうになってるの知っているから。思わず『竹之内先輩を押し倒すの?』なんて疑問が喉元まで」