翌日からひかるはまたお菓子工房へ通うようになりました。

仲間たちは思っていたよりもひかるが元気だったことにホッとしていたようでした。



ヴァレリーとセルジュは千裕のために何かできることはないかと、ひかるに言ってきましたが、ひかるは琴美のデザインの仕事の話をしてお礼を言いました。


「あのどっから来るのかわからないくらいすごい自信家の千裕が、そんな素直なぼっちゃんになってるなんてショックだよ・・・俺は。」


「チーフ・・・ショックというような顔じゃないですけど・・・。
なんだか、少しうれしそうな表情に見えるのは私の気のせいですかね?」


「気のせいだな。あれだろ、体はピンピンしてるんだろ?
性格がよくなるっていうのも、神様が導いた人生なんだろうなって思うだけ。
うはははは。」




あとでセルジュがひかるに告げ口したところによると、ヴァレリーの修行時代に後からやってきた少年の千裕に実力以外の部分でも、ヴァレリーは負けを認めざるをえなかったことが多かったらしいのでした。





千裕はパリのひかるの家には夜だけもどるようになり、ふだんは琴美の屋敷の一室をアトリエ兼自室として使うことになりました。

琴美の屋敷内に咲き乱れた、たくさんの花の絵を主に描いていた千裕でしたが、それがチーフデザイナーに認められ、2か月後にはオリジナルの食器のイラストになるまで決定したのでした。


少し自分に自信を持てる気持ちになった千裕は週に2度、画家やイラストレーターたちが集まるアトリエ教室へ通うようになりました。



千裕の才能に興味のある人たちが初日はどっと押し掛けてきて、千裕は驚いていましたが、やがて絵を描いている間は周りは空気がはりつめたように静かになり、周りの人たちは千裕の集中している姿に半径2m以内に入れない状況でした。


しかし、その反動なのか、休憩時間ともなると、千裕の近くには女性ファンでいっぱいになっていました。


「あの、お昼ごいっしょにいかがですか?」
と何人もの女性から誘いを受けるものの、千裕はいつもお弁当持参なので・・・と断っているのが日常になりつつありました。