その頃、千裕はすっかり部屋で沈み込んでいました。
管理人の岡村麻巳子から電話で伝言があったことを知らされて、やっと事の重大さに気付きました。
((日本に帰る前から、少し変だなって思ってたのに・・・。
いちばん必要なときに、なんで発信機をはずしていくんだ。あいつは。))
千裕はいっしょにいるからと思って、婚約指輪にしか発信機をつけていませんでした。
その指輪を落としたまま、ひかるは出て行ってしまったので、今回ばかりは行方をつきとめることができなかったのです。
((居場所はわかってるんだから・・・って安易に考え過ぎてたんだ。
何もつなぐものがないのがこんなに不安なものだと思わなかった。))
翌朝になって、岡村が千裕に謝罪しにきました。
「ほんとに先輩、私・・・すみませんでした。
久しぶりに別荘の中がにぎやかで、憧れの先輩がいて、お酒が入った勢いで舞い上がりすぎました。
家に帰ったら息子と親に叱られちゃって、ほんとに反省しています。
あの、さっき昨日の浜田さんから電話があって、浜田さんの代理という方がもうすぐこちらに着くそうです。」
「代理?・・・誰だろう。」
「あの、私、ひかるさんに謝りますから。」
「いいよ、気にしないで。
これは2人の問題だから・・・」
1時間ほどして、千裕の部屋に来たのはセルジュでした。
「なっ・・・なんでおまえが・・・?」
「神様が昨日の夜遅くに、ひかるを届けてくれたんでな。」
セルジュは浜田と友人で、ひかるが飛び込んでくるまでのことを千裕に話しました。
「そりゃ、運命的だな。」
「思ってたより余裕あるんですね。ひかるに出て行かれて、ちょっとはこたえてるかと思ったけど・・・。」
「こたえてるさ・・・。日本に戻ってくる前から様子がおかしかったのに、ここでとどめをさしてしまったみたいだからな。
浜田って男と出て行ったときいて、あいつが心配で眠れなかったけど・・・君が拾ってくれてよかった。」
「発信機は?あんたの得意技だろ・・・」
「ないよ。唯一の発信機でもある婚約指輪を落として出て行ってしまったんだから。」
「そうだったのか・・・。」