「僕がユウヤだとすぐにわかった?」


「突然でほんとにびっくりしたけれど、わかるわ。
別れてから、あなたたちの情報で手に入るものは、いつも目を通していたもの。
学生フットボールの記事や実業家としてのインタビューの記事もみんなスクラップブックにして持っているのよ。」


「えっ・・・。あのさ、今頃になってこんなこときくけど、どうして、僕たち兄弟を置いて出て行ったの?」


「それは・・・。」


ユウヤの母は口ごもって考えているようでしたが、ひかるの顔を見て、再び話し始めました。


「お父さんはほんとは女性は愛せない人だったの。
両親から小さい頃からきびしく、後継ぎを早くつくるようにって言われ続けて、政略結婚をするはずだったわ。

でも、形だけの結婚でいいはずなのにいろんなアメリカ女性と付き合おうとしてもうまくいかなかったらしくて、キサラギのホテルに勤務していた私に恋人として付き合ってほしいと言ってきたの。

考え方とかアメリカ女性とは違うし、都合がいいと思われたのかどうしてもそれまでだめだったセックスの相性が私とはまだよかったみたいで。
期待どおりに息子が生まれたわ。

でも、ユウヤが小さい頃ひ弱な子だったから、私は形ばかりの妻をずっと演じ続けて、お父さんもずっと演じ続けていた。


そして弟のリウが生まれて、私たちの仲は完全にお役御免夫婦となったの。
お父さんはずっと我慢して、家族のことや仕事のことをひとりで抱え込んできて、とうとう泣きながら、私に言ったの。

『このままここにいたら君をきっと精神的に壊してしまうから、出て行ってくれないか。
君がいいというまで生活に不自由させないから。』って。」



「やっぱりそうか・・・。
僕が就職するようになってから、父さんの噂をすぐに社員の中からきいてしまったんだ。
若い男と夜な夜などこかへ行っているって。
それまで僕らはずっと、父さんは社長だからすごく忙しくて家にもどれないんだと思わされていた。

今もあいかわらずだよ。
それで、僕も父さんと同じ目で見られることも多くなってさ・・・。」