「お、柏木。今日は早ぇな」


「何スかその、俺が毎回遅刻してるみたいな言い方」


「してんだろ」




だって学生だもん。


授業が長引けば遅刻するのは当たり前だ。



ちんたら働いてるオッサンとはちげぇんだよ。


一緒にすんな。






……って

これじゃまるで八つ当たりだな。






「…天音、来てますよ」


「…!!マジ!?じゃあカウンター戻るわ!!お前も早く来いよ」




先輩は引き締まりきらない顔を押さえながら

嬉しそうに走ってホールへ戻って行った。




幸せそうだな…。


そりゃそうか。




先輩、天音にマジで惚れてたもんなぁ。






……俺は?


俺はどうだった?




胡桃にマジで惚れてたよな?
真剣だったよな?



先輩と何も違わない。
同じなはず。



なのに…どうして…





今、俺は
幸せじゃないんだろう…。







沈んでいく気持ちを抱えたままトボトボとレジに向かうと


運がいいのか悪いのか


ちょうど胡桃の番だった。






「…アメリカンひとつ」




気まずくて動揺している俺とは違って、胡桃はサラリと注文を済ませる。



記憶がないっていいな…。




「って、アレ?ココアじゃなくていいのか?」


「え?」



何言ってるの、とでも言いたそうな怪訝な表情をする胡桃。



まぁ…そうだよな。


頭の中から抹消されて

記憶に微塵も残っていない人間が好みを知っていたら恐いよな。