メガネの裏はひとりじめⅠ




そんなあたしの行動に反応しないはずがない道留君は巳陵壱翔に飛ばそうとしていた言葉を飲み込んで、頭上に「…どした?」心配そうにやんわりとした優しい口調を落としてきてくれる。



だけど、まさか。



巳陵壱翔の口に出すのも恥ずかしい言葉で真っ赤になってます。なーんて、口が裂けても言えるはずがないから。



あたしは『なんでもないです…』そうポツリと呟いて、今は顔中の熱が一刻も早く引くことを願い続けた。



――…と、道留君の胸でそんなことを大きな手に髪を撫でられながらただジッと短時間では引いてくれなさそうなのに願っていれば。



不意に鼓膜を擽ったのは空気を揺らす可笑しそうな笑い声で。



「…おいコラ。何笑ってんだよ」

「や、だってさ、…ククッ」



いつの間に移動したのか、あたしと道留君の向かい側のソファーに腰を下ろして笑う張本人の巳陵壱翔に道留君は髪を撫でる手を止め怪訝そうに口を開く。



あたしも道留君の胸から未だ微かに熱を帯びる顔を離し、チラリと瞳を飛ばして巳陵壱翔を見てみれば。



手の甲を口の方に向けて口許を隠しながらクスクスと巳陵壱翔は喉を鳴らしていた。



あたしの中で"巳陵壱翔"という人間は向けられる瞳の意味は違えども、廊下をただ歩くだけで男女の瞳を釘付けにしてしまう人で。



他の人とは違う巳陵壱翔独特の雰囲気を醸し出し、少し怖いイメージがあって近寄りがたい人物だったのだ。



だけど目の前で笑う巳陵壱翔を見てこの人でもこんな表情で笑ったりするんだーって、素直にそう思い、怖かったイメージはほんのちょびっとだけど和らぐ。



ま、和らいだところで何かがあるってわけじゃないんだけど。