やっとスプーンを抜いてくれた道留君は三回目になる言葉を繰り返してコテン、と無邪気に首を傾げる。から、またあたしは道留君にすとんって落ちる。



『…〜、』



ダメ、だ。ドキドキしすぎて味なんか分かんないよ〜…。



噛まずにずっと口の中に入れておくのは気持ち悪い。控えめにむぐっむぐっと口を動かせばケチャップの酸味が口いっぱいに広がる。



それぐらいしか感じられないあたしの意識は全部道留君一直線。



…ゴクン。飲み込んだ刹那。あたしを見つめる双眼はまるで星をちりばめたみたい。キラッと光って。


「可鈴どう?」めっちゃ聞くじゃん〜…。



ほんとにほんとにほんとにオムライスが好きなんだな。


なんて。未だ余裕なんか生まれないままコクッと。小さく首を縦に振れば、道留君は言った。



"当たり前じゃん。俺の好きな食べ物だもん。"



と。



「…ごめん可鈴。その質問は答えられない。秘密、なんだ。」






申し訳なさそうに眉を垂らす彼は完全なる黙秘者。


オムライスが盛られていたお皿は、綺麗に空っぽになっていた。