「…俺、ワガママだ…。」
寂しそうに、呟く颯。
「どうして…?」
「俺、ホントに釉梨が好きだった。釉梨を大事にしたいって思ってた。だから…釉梨を失った時は、真剣に辛くて…。」
颯の口から、釉梨さんの名前を聞くたび、ちくんと痛む胸。
忘れたって思ってた…
のに、こんなにも胸が痛いのは…
まだ好きだからだ…。
「けど、碧衣と出会って、はじめて人といるのが心地いいって思えた。力になりたい、守りたいって、心からそう思った。なのに…、いざ釉梨が目の前に現れると、碧衣を傷つけた。」
「別れを告げたのは、私の方じゃん…。」
「それは、碧衣の優しさだろ?なのに…俺は、気づけなかった。碧衣の気持ちに。」
ぽつりぽつりと紡ぎだされる颯の心情。
一言も逃さないように、私はしっかりと耳を澄ます。
「けどさ、釉梨に言われたんだ。俺が釉梨を大事にしてきたのは、同情からだって。釉梨に、『本当に傍にいたいのは誰?』って聞かれた時、頭に浮かんだのは…釉梨じゃなかった。」
じっと私を見る颯。
哀しそうに、揺れる視線。

