フェイクハント

「わざわざ来てくれてありがとう。涼入って」


「おじゃまします」と小声で云いながら涼は、葬儀の時以来、典子の自宅の敷居を跨いだ。

 応接間に通され、ソファに腰を下ろすと、典子はキッチンに向かい、コーヒーをトレイに乗せ、運んできてくれた。

「ありがとう」と涼がお礼を云うと、典子はにっこりと微笑んだ。その微笑みが悲しげで、涼は胸が痛んだ。

 典子はコーヒーをテーブルに置き、ゆっくりとソファに腰を下ろした。

 そして唐突に典子は云った。


「ねぇ涼、私って醜い女よね……雪絵は友達だったけれど、あんなふうに死んでからも静夫の側にいるなんて、私は静夫の何だったのかしらって思うわ。考えれば考えるほど静夫のことを愛しているが故に憎しみが溢れて、雪絵に対しても許せなくて、気付いたら静夫と雪絵が写っている写真を河川敷で破り捨ててたの……実は私も死のうかどうか迷ってたのよ」


 そんな典子の告白に、涼はその現場を見てたことを、どうしても典子に云えなかった。典子の気持ちを考えると胸が苦しくなり、かける言葉が見つからなかった。