秀樹の車に乗った涼と典子と秀樹の三人は、始終無言で、車のエンジン音がやけに大きく聞こえるだけだった。

 警察署に着き、駐車場に車を停め、ゆっくりと署内に入って行くと、海人が連絡していたのだろう、会議室のような部屋に案内された。

 室内は大きなテーブルの周りに、安っぽい折りたたみのパイプ椅子がいくつか並べられており、三人はバラバラに腰掛け、それぞれ考え事をしているようだった。

 すると、突然秀樹が低い声を出した。

 
「どうして雪絵まで殺されるんだよ。俺が、俺が、あの時怒鳴っていなければ、典子の家を出て行き、雪絵は殺されることはなかったんじゃないか。ちきしょう、ちきしょう」


 秀樹は自分自身を責め続け、奥歯をギリギリと噛み締めている。
 涼と雪絵は、秀樹をなぐさめることも出来ず、溜息を吐くだけだった。

 しばらくすると、若い刑事と年配の刑事が何人かやってきて、涼達は順番に昨夜のアリバイを訊かれた。

 死亡推定時刻は、午後十時から午前十二時までの間だと云う。

 涼は海人が捜査に戻ったため、一人で家に居り、同じく典子も家に一人だった。そして秀樹も会社に一人で残っていたため、三人にアリバイはなかった。海人も自宅から警察署に行く間一人であったため、アリバイはないと他の刑事にも、告げていたらしい。

 雪絵のことについて色々訊かれたが、静夫の浮気相手が雪絵であることや、二人が共謀して、典子を殺そうとしていたことを云えば、典子に容疑がかかると思った涼は躊躇した。秀樹も同じなのだろう、黙っていた。