涼が考えている間に、典子はトレイに二つのティーカップと、砂糖の入れ物を載せて戻ってきた。テーブルに置くと、涼にどうぞと紅茶を勧めた。

 砂糖を入れることも忘れて、二人で紅茶を一口飲むと典子は口を開いた。


「ねぇ涼、私の話しを聞いてどう思った」


「静夫が典子を殺そうとしてたなんて考えたくないけど、看板が落ちてきた時、典子が見た女の人って、知っている人だったの?」


 思い切って涼が訊くと、典子は紅茶をまた一口飲むと答えた。


「知っている人だった……かな。それを確信したのは今日だけど」


「どういうこと? 今日って?」


「警察署に遥も来たの。会社の方にも静夫の事件を知らせる電話がいったみたいで、警察署に来た遥は、ひどく取り乱して、海人にきつい言葉投げつけて……彼女が帰って行く後姿を見た時、あぁ遥だったんだって確信したわ」


「そんな……。遥が……」


 遥はいつも特徴的な巻き髪で、いつも派手な色の服を着ており、背もかなり高いので確かに後姿でも分かり易いのである。

 しばらく応接間では沈黙の時が流れた。

 まるで出口のないブラックホールに投げ出されたように。