「ど、どうして? どうしちゃったのよ典子、しっかりしてよ。今は静夫があんなことになって、気が動転してるから、変なこと考えちゃうんじゃないの? 何日か前に四人で食事した時は、いつも通りだったじゃない」



「違うの。ここ一週間私は生きた心地がしなかったわ……。

 ベランダでお布団干そうとした時、柵が外れて下に落ちかけたの。その瞬間私は後ろに尻餅をついたから、落ちたのは布団だけだったけど、柵を見ると故意的にネジが緩められていた。その時、家には私しかいなかったし、静夫に後から訊くこともしなかった。

 そして次に、静夫に頼まれて会社に書類を届けに行く時、私は車の運転が出来ないから電車で行ったんだけれど、もうすぐで会社に着くというところで、ビルの上から看板が外れて落ちてきたの。私はその時も間一髪で助かったけど、避けた時咄嗟に見上げたら、女の人が去っていく後姿が視界に入った……。

 ――涼達と四人で食事して別れた後の帰り道、静夫が転びそうになって私のことを掴むと、車がたくさん走っている道路に突き飛ばしたのよ……。幸いその時も轢かれずに済んだけれど…もちろん静夫はゴメンと謝ってきたわ、転びそうだったから典子を掴んでしまったんだと明らかに狼狽しながら苦しい云い訳をしたわ。その時ハッキリと、静夫が私に対する殺意を持っていると確信した。

 それでも私は彼を愛していた……。殺されたと知らせを聞いて、静夫の遺体を目にして、やっぱり私は彼を愛してると強く思ったわ」