「入って、涼」


 小さい声で典子がそう告げると、涼は少しかしこまり、広すぎる玄関で靴を脱いだ。典子の家はあまりにも立派過ぎて、数回しか訪れたことはなく、いつも緊張してしまうのである。

 そして典子に続き、長い廊下を進み左側の三つ目にある応接間に通された。そこには立派な革張りの大きいソファと大理石のテーブルがあり、壁や棚には絵画や年代物のアンティークが飾られている。典子に促され、涼はソファに腰掛けると、テーブルを挟んだ向かい側のソファに、典子も腰掛けた。 

 一呼吸置くと、典子は突然驚くべきことを云った。


「涼、いつか相談しようと思ってたんだけど、静夫……浮気してたと思う」


「ちょ、典子どういうこと? あなた達、長年付き合って結婚したのに」


「多分、付き合っている頃から静夫は浮気してたんじゃないかと思う。始めから私のことなんて愛してなかったのよ……」


 そして典子は、続けて驚愕するようなことを云った。


「静夫は……私を殺す気だったと思う」