次の日、仕事で彼と顔を合わせたのだけれど、眼鏡の奥にある小さい目を腫らし、その目で私をじっと見ている。


「おい! 聞いているのか広瀬」


 ぼんやりした彼に気付いた上司が一喝した。


「すみません部長、俺、今日はもう早退させて貰っても良いですか? 理由は彼女に訊いて下さい」


 そう云って、彼は私を指さした。

 え? 何? それどういう意味? 私は貴方が早退する理由なんて知らないわよ。
 彼は云うだけ云って、スタスタと会議室を出て行った。


「君、これはどういうことなんだ。広瀬から何か聞いているのかね」


 彼の会社の部長から、そう問われた私は、首を横に振るのが精一杯だった。彼にそう云われた理由を考えていたからである。
 いくら考えても理由は分からない……。

 あっ、もしかして昨夜電話を冷たく切ったりしたせいじゃないわよね。まさか……それが原因で目を腫らすほど泣いたということはないわよね。でも、理由は彼女に訊いてくれだなんて、やっぱり原因は――。

 結局そんなことばかり考えていたせいで、会議は散々だった。