俺はテンコが女性じゃなかったことを知り、心底ショックを受けている。だからと云って、ネットに懲りたわけじゃない。

 俺は心機一転、またハンドルネームを【ゴロンゴロン】に戻すことにした。

 一時期は酷く嫌われたけれど、人の噂も七十五日とはよく云ったものだ。そろそろ俺を嫌った奴らは俺の存在を忘れているだろう。

 そしてまた今日も俺は携帯の画面を凝視し、新しいターゲットを物色している。

 しかし、まさにその時、一本の電話を受け、女房や子供達がバタバタし始めた。

 俺は携帯片手に、何があったのか訊くと、どうやら突然女房の親が亡くなったという。めんどくさいな。俺はそんなふうにしか思えなかった。葬儀に行けば、じっくり携帯をいじる時間がないのだから、迷惑な話だ。俺は何て純粋で自分の気持ちに正直な人間なんだろうと、つくづく自分で自分を褒めたくなる。

 俺は古びたコタツから出ると、しぶしぶ喪服に着替えた。

 
 葬儀の準備は忙しく、俺の苛立ちは募る。

 会場は女房の実家から近い場所にあり、二階建ての建物だ。一階はお通夜会場となっており、二階はお通夜が終わった後、故人を偲ぶ為に設けられた部屋がある。参列者が多いことが予想され、女房の幼馴染が葬儀屋ということもあり、実家でお通夜を行わず、葬儀会場ですることに決まったのだ。