――ある日、私はお風呂に入り、湯船に浸かっていたのだけれど、微かに携帯のメロディーが聴こえる。
 あれ、鳴り止まないなぁ。もしかして、誰か緊急の用事かしら。
 そう思った私は急いでお風呂から出ることにした。

 携帯のディスプレイを確認すると、【広瀬シュン】の文字が点滅している。

 あれ、こんなに鳴らすなんて、仕事で何かトラブルかしら。
 通話ボタンを押すと同時に、広瀬シュンは早口で云った。


「良かった~。やっと電話に出たね。何してたの? ずっと鳴らしてたんだよ」


 何してたっていいじゃない。
 私は内心そう思ったけれども、敢えて冷たく答えなくてもいいかと思い直した。


「ごめんなさい。今お風呂だったから。何か急用かしら?」


「そうか~お風呂入ってたんだね。湯上りの君は色っぽいだろうなぁ。俺想像しちゃうよ」


 何云ってるの? あんなに携帯をしつこく鳴らし続けていたのは、緊急の用事じゃないのかしら。
 段々腹が立ってきた私は黙り込んだ。


「あれ、聞いてる? もしも~し」


「ごめんなさい、今キャッチ入ってるから、急ぎの用事じゃないなら切るわね」


 私は半ば強引に電話を切った。

 キャッチが入ったというのはもちろん嘘。これ以上、彼と会話する気分にはなれなかったから……。