僕は君の望むことなら何でもした。欲しいものがあればプレゼントしたし、行きたい場所があれば、それを叶えてきたつもりだ。お酒が好きな君に付き合い、僕は苦手なお酒を無理して飲んで体調を崩したこともあった。君を喜ばせようと、自宅の前で花束を抱え、何時間も待ったりもした。会えない日には必ず何度も電話をかけたし、たくさん愛を込めてメールも送った。例え君が不機嫌な態度を取ろうとも、メールの返事が来なくても、僕が君を愛することに何も変わりはなかったんだよ。

 それなのにどうして? 

 どうして君は突然僕に、『うざい』『しつこい』『もう来ないで』などと罵声を浴びせたんだ。全く理解出来ない。僕の何が気に入らなかったというんだろう。今まで君を受け止めてきたじゃないか。他に男が出来たとでもいうのか? まさか……そんなことはないだろう。だって君は一途な人だから。


 昨夜喧嘩をした後、僕は『ちゃんと話し合おう』と君に電話をした。君はしおらしく、僕と会うことを承諾したから安心したよ。きっと君が僕に突然罵声を浴びせたのは、虫の居所が悪かっただけなんだね。

 だって、僕達は愛し合っているのだし、心から君を信じてる。


                     
                                     

         


   
「では、彼が来てもあなたは平静を装って下さい。逆上されて何かあったら大変です。もう一度、彼とのことを詳しく訊かせて貰えますか?」


 スーツ姿の探偵、石川陸は女に問うた。


「はい。彼は私の恋人でもなければ、元恋人でもありません。だいたい私の店に来ていたお客様の一人だっただけなんですから。それなのに、私を恋人だと思い込んで、自宅にまで押しかけられたり、後を着けられたり……。だから私は我慢の限界で、彼に罵声を浴びせてしまったんです。すると、余計彼の行動はエスカレートしてしまい……家に行くからと……」


 キャバ嬢である女性は、目に涙を溜めながら答えた。


 探偵である石川陸は、思い込みの激しいストーカーを説得するのは大変だなと眉をしかめた。