――――ガラガラガラッ






校舎1階のかど、森林に一番近い部屋の扉をあたしはノックもせずに開く。

少し消毒薬の香りがする保健室に保険医の姿はなく、5つあるベッドうち向かって1番奥のベッドに少女が無造作に横たわっているだけ。


「なんで刹那、いないんだろ……。見張り頼んでおいたはずなんだけど」


あたしの後について保健室に入ってきた翡翠は、室内の様子を見ると不思議そうに呟いた。

刹那が頼まれ事を途中で投げ出すなんて……何かあったの??






「保険医の彼なら、今頃永遠を殺しに行ってると思うよ」






途端に刹那に対する心配を増大させるような言葉が、クスクスと笑いながら話す間延びした声によって紡がれる。


「刹那が…どうしたの……??」


「だからね、保険医に永遠を殺しに行ってもらったんだよ」


術によって創られた鎖でベッドに拘束されている少女は、愉快そうに顔を歪める。

その表情は、誰かを彷彿とさせるもので……


「かな、た……なの??」


名を呼べば、少女はニヤリと効果音がしそうな笑顔を浮かべる。


「さすが、最高位の血族のお姫様は違う。でもね……護衛に自分よりも弱い奴を選ぶのはどうかと思うよ。ねぇ、翡翠くん」


視線が向けられているのは翡翠で……交わる視線が少なくとも友好的なものでは無いことが容易に理解出来るほど。


「……相変わらずの減らず口だね。このまま君を殺してやりたいよ」


長い袖口から隠していた短剣を現し、スッと少女の首にあてがう翡翠の瞳には憎悪が滲み出ていた。


「出来るならやってみれば??確かに中身は僕だけど、身体は人間。人間がどうなろうと僕には関係ないからさ」


だからやりなよと、翡翠を見つめながら少女の身体を操る彼方は尚も挑発的に笑う。

翡翠に投げ掛けられる視線は……殺しても構わないかと、問い掛けてきていて。






「ッ……ごめん、なさい……」






彼等に何があったのかなんて分からないけど、何があろうと今の状況であたしは首を縦に振れない。

だから、それにただ瞳を伏せることしか出来なくて、唇を噛み締めた――――……