「蒼のこんな表情をアイツも見たかと思うと、癪だな」
眉間に深い皺を刻みながらそう呟く白夜を見上げると、また白夜の掌によって視界を遮られる。
「そんな目で見るな。俺だって男なのだから、我慢がきかなくなるだろう」
「……我慢??」
白夜の言葉の真意がよく分からなくて、子首を傾げれば白夜は呆れたような溜め息を吐き出す。
光の戻った視界の先で見た白夜の表情は、優しく微笑んでいるけど声音は呆れているみたいに聞こえる。
「癪ではあるが、アイツも報われんな。こんなことをしても、蒼の俺等に対する警戒心など皆無ではないか」
「白夜達を警戒なんてするわけないでしょ??それじゃまるで、あたしが白夜達を信用してないみたいじゃない……」
長い間、ほぼ一日中一緒にいるのが何年も続いている中で、確かに生まれた信用と安心。
それなのにむしろ警戒心を持つべきだとでも言うような言葉が少し気になって、同時に少し悲しくなる。
「それは俺等を信用している、ということか??」
「……??今更、何言ってるの??当たり前じゃない」
「そうか……随分と変わったな、蒼は」
あたしが当然のことを当然のように言えば、まるで子供にするように白夜に頭を撫でられる。
あたしの頭を撫でている白夜の表情を見るために顔を上げようとするけど、またすぐに視界を遮られる。
その白夜の仕草に、思わず笑みが浮かぶ。
「そろそろ保健室に向かうぞ。この女を、そのままにしておくわけにはいくまい」
そう呟く声と共に頭を撫でていた手が離れていき、今更ながらに白夜が少女を連れていたことを思い出した。
「そうね。行きましょうか」
道が狭いためあたしが白夜の後ろを歩きながら、翡翠にもされた時のように自分の口唇を指先でなぞる。
――――さっきのは、キス……だったんだろうか??
「蒼がそのままでもいいように、俺が護ってやる。だから、頼むから無理をするな」
蒼の腕に残っていた紅い跡を思い出して、悔しそうに手を握り締めた――――……

