「無理しないでね、姫。僕は、護衛に出てる白銀とかに伝えに行くから」
翡翠はあたしの頭をまたひと撫ですると優しく微笑み、あたしもそれに安心して瞳を伏せる。
真っ暗な視界の中でも、翡翠の体温に不安感を見せないどころか心が穏やかになるのを感じる。
「……無防備」
「え……??」
聞き取れないほどの小さな声で翡翠が何かを言ったような気がして、光を求めるように目を開けるけどそこは暗闇のまま。
自分の目元に触れてみればそこにあるのは誰かの手で、自分以外の誰かのものであると分かっている時点でそれは翡翠の手だと分かる。
「ひす、い……??」
名前を呼んでも応えない翡翠を不思議に思い手を伸ばしてみても、それは空を掴むだけ。
――――フニッ
「……??」
口唇に触れた柔らかい何かの感触に、あたしは僅かに首を傾げる。
様子を伺うために翡翠の掌を眼前からずらすと、目の前にはエメラルドとシルバーの瞳。
すぐ近くに翡翠の顔があったことに驚いた。
「僕も男なんだから、あんまり無防備だと危ないよ??」
妖艶に微笑む翡翠を見ているとまるで別人のように感じて、顔に熱が集まっていくのが分かった。
「……ッ?!!」
「また後でね、姫」
クスリと妖艶に微笑んだまま去っていく翡翠の背中を見つめながら、あたしは口唇を指でなぞる。
今のって……??
「これで少しは敵にも……僕等にも警戒心を持ってくれるといいんだけど」
自分の指先を見つめながら、さっきとは打って変わった自嘲的な笑みを浮かべる。
「ずっと好きで護りたいって思ってきた姫に……そんな簡単にキスなんて……出来るはずはずないじゃんか」
ギュッと手を握り締めると、木々の間を走る速度を速めた。

