「従属……暗示……」
言葉を復唱すればするほど心中を支配するのは、渦巻く不安と胸騒ぎが大きくどす黒くなっていく。
さっきの彼方と少女の姿が脳裏に浮かぶ。
白い首筋に付けられた紅い鬱血痕を"所有印"だと、楽しげに笑いながら話す彼方の姿。
空を見つめたままの、何も映していないような濁った虚ろな少女の瞳。
もし……彼方が少女とキスした際に、血を飲ませていたとしたら……??
「ッ!!あの子……?!」
それは胸のざわめきを駆り立てるには充分な材料で……慌てて先程まで少女がいた場所に視線をはしらせる。
そんなもの時すでに遅く、当たり前のように少女の姿は無かった。
「アイツと一緒にいた子なら、彼方にフラフラしながら付いていったよ」
「ッ……なんで、もっと早くに……!!」
なんでもっと早くに気付けなかったんだろうと……自己嫌悪に陥る。
冷静に彼方と少女が消えていったらしい場所を見つめる翡翠の手を、ギュッと握り締める。
ヴァンパイアに暗示をかけられて、どうなるのか分からないからこそ……怖くて手が震える。
「ねぇ、姫。僕等はさ、人間を護りたくてここにいるわけじゃない。姫の力になりたいからここにいるんだよ」
優しく諭すような翡翠の声が耳に届いて、身体の震えが次第に止まっていく。
「もしあの子を助けたいなら……」
一度区切られた言葉に合わせ、俯かせていた顔を上げる。
「僕等に……命じて??」
抱き締められながら耳元で囁かれる翡翠の声に応えるように、あたしも翡翠の耳元で囁いた――――……

