「僕等は姫と契約を結ぶとき、姫の血を小瓶一本分は飲んだでしょ??」
翡翠の問いに、あたしは小さな頷きだけを返す。
大きめの黒と紫のボーダーの服の袖口から覗く黒い革手袋を、翡翠は左手だけ外して見せる。
白い手の甲に大きく描かれているのは、白い右翼に黒い左翼を持つ十字架……これは翡翠との契約印であり、銀月家の継承者の身体に浮かび上がるもの。
「契約を結んだ僕等の身体の一部には、この契約印が浮かび上がった。これも一種の"所有印"なんだよね」
「……ッ」
"所有印"という言葉が嫌に耳に響いて、あたしは顔を伏せる。
自分が銀月家の継承者を示す刻印に縛られているのに、他の者を契約印で縛り付けているのは……。
「そんな顔しないで。姫にそんなつもりが無いことくらい、分かってるから」
「……ごめん。続けて……??」
翡翠の言葉に少し胸を撫で下ろして、微笑みを浮かべながらそう呟く。
そのすぐ後に、翡翠の言葉を免罪符にしようとした事に罪悪感を感じて、なんて悪循環なんだろうと笑えてくる。
「アイツのは僕等の契約とは比べ物にならないくらい、簡単なんだよ」
翡翠は心配そうにあたしの頭を撫でると、あたしの脇を通り抜けてどこかに向かいながら話し始めた。
「アイツの契約には血が一滴程度で足りるんだ。契約印も目立たないところに、小さく浮き出るだけ」
翡翠が歩いていった先に目を向けると、さっき彼方に蹴飛ばされた剣があって、今更ながらその存在を思い出した。
再びあたしのところに歩いてきた翡翠の手に握られている剣を、柄に軽く触れて消滅させる。
「ただ"所有印"をつけるのはワケが違う。それを付けたら、従属……一種の暗示にかかったような状態になるんだよ」
大したことの無い術だという思いが頭を掠めた矢先、そんな言葉が耳に届いた――――……

