「ねえ、聞いた?今日転校生が来るんだって!しかも、ふたり!」

「あたしはさっき見てきたよ。ふたりとも、すごいかっこいいの!」

興奮冷めやらぬ様子で、歓喜を声に滲ませながらさう捲くし立てた少女は、わたしの記憶が正しければこのクラスの生徒ではない。さらに付け加えるなら、隣のクラスですら無かった気がする。まあ、そんな彼女の隣で、同じく興奮しながら話す子は、わたしのクラスメイトだったかもしれないが。
わたしは彼女たちがクラスメイトであろうがなかろうが、会話の内容に興味はない。けれど、周りへの迷惑など顧みずに現在進行形で繰り広げられている会話は、聞くつもりなどなくとも嫌でも耳へ入ってきてしまうもので。思わず眉間に皺がよりそうになるのを、空を見上げることで誤魔化した。そもそも、教室内そのものの雰囲気が普段より浮き足だっているところを見ると、あまり彼女たちの周りは迷惑だなんて思っていないかもしれない。

「かっこいいんだ?彼女とかいるのかなあ……?」

「さあ?なあに、あんた初対面でいきなり告白でもする気?ほんと、面食いなんだから」

「だって、かっこよくないと自慢になんないでしょ?」

「……ほんと相変わらずね」

きっと彼女たちが今している会話こそ、普通の反応で“それらしい”会話なのだろう。それでもそれらは、とてもくだらないように感じた。呑気なものだ、と。

「……馬鹿らしい」

流れゆく雲を眺めながら頬杖をつき、吐き捨てるように呟く。ふと思った。今の言葉は誰に向けて言ったのだろう。彼女たちに?それとも……、わたし?

「……まったく、わたしは何を考えてるの」

思考を断ち切るために、ゆっくり瞬く。ふと見てみると、ところどころ雲が浮かぶ空の色に塗り潰された薄いガラス窓には、昼間ゆえに、ぼんやりとだけ闇色の髪と瞳をしたあたしが写っている。窓を見ただけで認識できるのは、髪色、髪型、それとぼんやりとした表情のみ。けれど意図せずに零れ落ちた溜息で、見えずとも自分がどんな表情をしているのかくらい容易に想像がついた。人間らしく、学生らしく、それらしく。空間に馴染んで、存在が浮いてしまわぬように。そのためのわたしの姿に、いまさら違和感を抱いた、なんて。本当に今日はらしくない。