相変わらず掴み所の無い彼方の言動、表情や雰囲気に、永遠は盛大に顔を顰めた。王族出身という共通点をもちながらも、普段から関わりあいを持つことがあまりないふたりは、性格的な面に関しては合致することがほとんどない、というより皆無なのだ。永遠から言わせれば、なぜ彼方と、しかもふたりきりなのか、全く理解できなかった。

「ンだよ、言いたいことがあんならはっきり言えよ」

「なあに、はっきり言ってもいいの?」

彼方はくすり、と、間延びした声と共に、挑発的に笑みを深めた。苛立った雰囲気の、殺気さえ滲ます永遠を微塵も気にしないあたり、さすがは牙來条家の跡取り。

「僕はねー、永遠なら女の子の首筋くらい、えっちなことスる時に簡単に見れるでしょ、って言ったんだよ」

「……俺に人間の女を抱けってか」

うん、そうだよ。まるでそう言っているかのような大きな頷きには、悪怯れた様子など含まれておらず。人間の女に興味ねえんだけど、そう心中で小さくぼやくと永遠は彼方から視線を逸らし、終焉を迎えた薄暗い森の先へと視線をはしらせた。

「あれが銀月学園か?」

「ん?そうみたい。でも学園っていうより、おとぎ話にでてくる洋館みたいだね。なんか変な感じ」

長らく続いた森林が拓け、視界には木々ではなく草木や整然と並んだ花々が映る。そのさらに向こう、そこには日本であるこの地に似つかわしくない西洋造りの大層な館が聳えたっていた。目視できるのは、現在校舎として使われているであろう主となる建造物のみで、思わずその大きさに圧倒される。それはまさしく、彼らが目指していた学園そのものなのだが、こんな校舎の他に宿舎などもあることを考えると、途方もない話である。

「めったに来れない人間の学校だし、愉しませてもらおうかな」

「……そうだな」

愉しむ、その言葉の裏側。永遠と彼方、ふたりにとってどんな感情が、思惑が、闇が孕んでいるのか。互いですら分からぬまま、ただ任務という名ばかりのものを抱えながら、ふたりは厳格で壮大な学園の敷地に足を踏み入れた。