「はっきり言ってくれないと、気になるわ」
気まずそうな顔をした黒羽さんの様子からしてあまり話たくない内容なのは予想できたが、気になってしまった以上は聞いておきたかった。彼がどんなことを考えていても、それはわたしが許容できる範囲だと断言できる。それくらいには永い間、ともに過ごし同じ時間を生きている。
「……髪」
「……髪?」
「……最近、黒しか見てねえから、銀にはしねえのか、とか。そういえば、銀髪は好きじゃねえって言ってたな、とか。……そんなことだ」
たいしたことじゃねえだろ、そうぼやきながら片手で目元を覆ってしまった。何時だったか彼に、銀髪のほうが好きだ、と言われた。理由を問うたことはない。わたしはこの銀髪は罪の証としか見ていないから、好きにはなれないのは分かりきっていたのだ。
「……黒羽さん。わたし、黒髪似合わないかしら?」
「……そんなこと言ったか、俺」
「似合わないとは言ってないけど、それでも銀髪のほうがいいんでしょ?」
「……銀だから、ってわけじゃねえよ。なあ、お嬢さん。俺たちが初めて会った夜のこと、覚えてるか」
どうやら落ち着いたらしい黒羽さんは、わたしに真摯な眼差しを向けると、そんなことを聞いてきた。そんなの愚問だ、覚えていないはずがない。今とはだいぶ雰囲気が違っていたその様子ですら、鮮明に思い出すことができる。既に中身が半分以下になったカップをおいて、もちろん、そう返そうとした瞬間。
「……黒羽さん」
「……ああ、わかってる」
ふらふらと彷徨いながら徐々にこの資料室に近づく気配に、互いに視線を鋭くする。今日は例外的行為が多すぎる。普通なら絶対に聞こえないはずの時計の音が聞こえる吸血鬼が転校生として現れたり、限定‐リミテッド‐を使っている間に動く影があったり。もしかしてこの現象も、あの例外で要注意人物の転校生が関わっている……?
「ねえ、黒羽さん」
「……?」
「今からわたしは、“銀月学園の生徒”ではなく、“銀月学園の理事長の娘”よ」
「……了解」
一度置いたカップを再び口元へ運び、残り半分ほどのアールグレイを数回にわけて飲み干す。そして胸元から取り出した懐中時計に彫られた紋章に、そっと口付けを。序でに、先ほどと同じように指を鳴らす。これで時は通常通り流れ始め、わたし達が動いていても不自然ではないし、且つわたしが先ほど会った“わたし”だときっと彼は気付かない。視界の端で、陽の光を浴びてプラチナシルバーがきらめいた。

