自分以外の者が全て鬼という状況でも、湯川君は諦めた目をしてはいなかった。


 時間一杯まで逃げ切ってみせるという気概に溢れ、隙を見せることもなく、足も速い。


 躍起になって追いかけなくとも、数に任せて捕まえられそうだと思っていたが、なかなかどうして、そうもいかないようだ。


 粘り強さと底力は隊一なのではなかろうか。
尤も、そのくらいでなければとっくに捕まっていたろうけれど。


 湯川君のあの言葉は、これを予想していたのだろうか。
揺るぎない自信の表れだったのか。


 そう考えると、あのように悪戯小僧のような顔をしたこともなんとなく納得出来た。


 暗に『僕を捕まえられたらね』との意だったに違いない。


 その自信は崩れることのないまま、鬼ごっこは幕を閉じた。