魔念村とは現在地図にも載っていない村であり、日本の南の方角に位置する場所に存在していた。その村に行くにはK県から入るのだが、山を切り開きトンネルが出来ることもなく、魔念峠と呼ばれる峠を三つ越えたところにある。不便な場所だということで若者はどんどん村を離れていくため、過疎化が年々進み、去年とうとう廃村になってしまったのだ。

 かつて魔念村では数々の云い伝えが囁かれてきた。昔から村を囲む魔念山にはたくさんのケムンドウという魔物が住んでいて、罪人を捕らえ食べてしまうと云うものである。罪人だと判断されないために鴉を大事にしなければならなかった。鴉はケムンドウの使いと云われていたが、同時に村人を守ってくれる存在として考えられていたのである。そのため村人達は、家の軒先に鴉の嘴に見立てた模型のような物を飾るのが風習だった。毎年夏に行われるお祭りでも、鴉のように黒いマントに身を包み火を囲んで踊るのである。その時村人達はわらべ唄を歌い、それは朝日が昇るまで行われると云う。それは村の繁栄を願ったものだと云われてきた。