花の家

 歌うような揚羽の言葉にも、多郎は表情を変えなかった。

 ただ、その目だけは益々、温度を振り払って、冷たく鋭くなっていく。

 空気が張り詰める。

 この均衡が弾けたら、どうなるのか。

 それを考えることさえ許されない緊張が、狭い渡りで高まっていった。

「おいおい、穏やかじゃないな」

 玄関先からの長閑な声が、張った糸を弛ませる。

 二人が振り向くと、鈴目が踵を踏んでスニーカーを脱いでいた。

「お前ら、廊下で争ってんなよな。客が気まずいだろ」

「鈴さんまで、どうして皆、挨拶も無しに入ってくるんだ」