また起きるかもしれないと思ったら手のひらに嫌な汗をかいて、香里は多郎に見えないように布団のなかで、きつく膝を握った。

「無理すんなよ、まだ歩くの辛いだろ。俺、朝蜘先生と話してくるから、その間、ちょっと休んでな」

 鈴は座り心地の悪い椅子から立ち上がると、子供にするように香里の頭を撫でる。

「行っちゃうの?」

 また、あの歪んだ夢のような世界に迷い込みはしないかという恐れが消えない。

 滲む不安が見て取れたのだろう。鈴が苦笑した。

「すぐ戻って来るって。ついでに、お前の荷物取って来てやるよ」

 多郎もいるしな、の目配せに、多郎は頷いてみせた。

 大丈夫だから、と香里の汗ばんだ手を弟の大きな手が包む。

 安心すると同時に、急激な眠気が襲ってきた。

 もし、あっちの世界が本当で、この温かな世界が夢なのだとしたら、わたしは泣くだろうと香里は思った。