花の家


「今さっき、思い出したクセに。よく言うわよ」

 抱きつこうとしたのに、おでこを爪で突かれて、痛みに転がる。

 ちーちゃん、ひどい。

「ちーちゃん、カマキリなの? えっと、なんか鎌が出たりするの?」

 ひたいを押さえながら、矢次早に質問する香里を、智恵子は呆れた目で見た。

「イマジネーション貧困よ、香里。虫の家の血はね、男子に限って、その力を発現するの」

 つまり、女子の私に、虫の力はないわけ。

 何にも知らなかった香里と違い、智恵子は、家のことをよぉく知っているようだった。

「花の家が女性しか力を持たないのと同じでね。……そうでしょ? 多郎」

 言って、智恵子は背の高い年下に目配せを送る。