本当に愛おしい君の唇

 これは異常事態だったが、仕方ない。


 互いの配偶者同士が上手くいかないということなので。


 そして治登はそんなことを忘れてしまって、直美と一緒にホテルを出た。


 会社に向けて歩き続ける。


 上下ともパリッとした背広を着たまま。


 やはり大会社の専務にはそれ相応のものが必要だ。


 単に肩書きだけでなく、着ている服や持ち物など。


 治登はそういった、やや高いものがとても似合っているのだ。


 世界展開する大商社ルーデルの専務に収まっている治登は、毛並みが違う。


 そこら辺りにある安手の企業の専務職とはまるで違って、まさにサラブレッドなのだった。


 たとえ、結婚生活は上手くいかなかったにしろ。
 

 そしてやはり勘が当たっていた。