本当に愛おしい君の唇

 治登は応じ、抱き返した。


 決して離れることはないと信じながら……。


 改めて考えてみれば、どちらもある程度年齢を経てきている。


 治登も直美もすでに四十を超え、人生の半分ぐらいが終わったわけだ。


 互いに成熟した人間同士なので、恋愛するのに全くと言っていいほど違和感はない。


 治登は新年度の人事で全部地方に飛ばしてしまった古賀原や石松、西などのことが脳裏によぎることがある。


 皮肉なことに確かにあいつらにはジョーカーを引かせた。
 

 だが、気の毒だとは全く思わない。


 単に一時的に地方に回したというだけで、まだあいつらに対する本当の処分は済んでいないのだ。


 古賀原たちが本社に辞表を送ってくるまで、徹底するつもりでいた。


 それだけあの連中はルーデルを貶(おとし)めたのだ。


 企業の中核にいて、動き続ける人間にとって、何もしない人間たちは全く必要ない。