皆川の前を通り過ぎようとしたひかるは、皆川に背後からハンカチのような布で口をふさがれました。
ひかるは咄嗟に、普通じゃないことに気づき、以前幸恵がプレゼントしてくれた手作りのクマのマスコットを落として、足で踏みました。
「うっ・・・何も見えない・・・。千裕様・・・幸恵さ・・・」
皆川は車にひかるを乗せると裕樹の家を後にしました。
それから30分ほど後に、幸恵が帰宅しました。
「環境はいいんだけど、葉っぱやゴミがたまりがちなのよね~。ここの門って。」
そんな独り言をいいながら、ふと足元を見ると、見慣れたクマが真新しい泥がついて落ちていました。
「これは、ひかるちゃんにあげたもの・・・。そだ・・・」
幸恵はクマのお腹に人差し指をつっこみました。
クマのお腹の部分は縫い糸が少し足りなくて、大き目の穴があいていたのです。
それを2人して、小さいものなら入れられると会話していたことを幸恵は覚えていました。
案の定、ひかるが書いたメモが入っていました。
『裕樹さんに千裕様から伝言です。
千裕様が無理やりご両親から結婚話をすすめられています。
結婚しないと、千裕様の会社すべてをお父様が没収して、現在の社員はすべて解雇だそうです。
裕樹様のお力で、社員が解雇されないようにしてほしいのです。
よろしくお願いします。』
((これは・・・。ひかるちゃんがクマさんを落としてるってことは・・・誰かに連れ去られたのかもしれない・・・。))
幸恵はこっそり、千裕の屋敷の様子をさぐりにいってみました。
敷地内にトレーラーやトラックなどの大型車が並んでおり、偉そうに命令をする女の声がしました。
お使い社員のフリをして、高田をたずねた幸恵は千裕たちのことを説明しました。
高田は思わず、「しまった!」とつぶやきました。
「皆川が裕文の側の人間だったとは・・・。ひかるにもしものことがあれば・・・。
千裕様にとにかくご連絡だけいれます。」
高田からの連絡をきいた千裕は机をこぶしでたたきました。
「ひかる・・・伝言は届いたよ。・・・でも・・・くっ。

