「吉岡さんからきいたんです。裕文様のお母さんから過去に無理難題を押し付けられてきたという話を・・・。」
「無理難題といっても、以前は俺を困らせる程度のことばかりだったんだ。
それもいたしかたないことなんだって、わりきれていたんだ。
でも・・・今度ばかりは・・・。
俺と会社の社員の未来が失われてしまう事態なんだ。
親父には意思は伝えたんだけど、無理だで片付けられた。
俺個人のことだったら、おまえを連れて遠いところへ逃げるんだけど、社員をまきこむことになってしまっているのだから、そうはいかない・・・。くっ」
「裕文さんなんですよね。たぶん、その嫌がらせの発端って・・・。」
「おぃ、裕文のところへ行くとか言うんじゃないだろうな。
拉致られて、何をされるかわからないぞ。」
「でも、私がここへもどったことが原因なら、私がいってお願いすれば、急な結婚くらいは止められるかも・・・。」
「あまいよ。あいつは仕事でも、徹底的にやる主義だから、おまえが俺をかばうために頼みごとをしても怒りをかうだけだ。
それでな・・・頼みがある。
兄さんに伝言してくれないか。」
「はい。でもこの時間は裕樹さんはいないかも・・・。
しばらく時間潰して、幸恵さんに会えたらいいんだけど。」
「うん、とにかく、俺はそろそろ仕事にもどらないといけないし、出社したら今日は帰りが遅くなる。だから・・・」
「幸恵さんとこに居させてもらいます。でいいんでしょ?」
「ああ。その方がいい。」
そして、ひかるは打ち合わせどおりに時間を地下通路でつぶしてから、裕樹と幸恵の家へと向かいました。
すると・・・家の門の前で、以前執事見習いとしていっしょに働いていた、皆川がホウキで掃除しながら笑顔で挨拶してきました。
「おかえりなさい。」
「あれ?皆川さん、見かけないって思ったら、ここでお仕事してたんですか?」
「え、ええ。」
「幸恵さんに用事があるので、ちょっとお邪魔しますね。」
「どうぞ・・・ごゆっくり・・・ふっ」

