通路の壁にふたのようなものがあり、千裕はそのふたを開けると、自分のワイシャツとセーターを取り出しました。
「あまりにご都合主義というか・・・どうして・・・?」
「いつのまにか、ひょっこりもどってきている千裕先生だから・・・俺。
いろいろ細工を施してあります。
さすがに、ここは三崎の人間であっても知らない改造だよ。
屋敷へもどるための車や、仕事に必要なものなんかもすべて用意してある。
俺だけが自由に活動できる場所・・・。あはは」
「びっくりしたぁ・・・。そんなこと私、知らないから、もう・・・ひどいこと言って・・・言いながら、それが悲しくて・・・。」
「わかってる。けど、障害が大きいほど、燃えるんだよねぇ・・・。」
「え・・・千裕様?」
「どれだけ裕文が仕掛けてくるとしても、俺は逃げない。
だから、もどってくるんだ。」
「でも、吉岡さんや、いっしょに住んでるアパートの人たちに裕文さんから何かあったら・・・そんなことになったら・・・」
「それは絶対大丈夫だから、安心して。」
「でも・・・幸恵さん、何も知らないのに・・・」
「知ってるって。俺、昨日、挨拶したしさ。」
「はぁ?・・・どうして千裕様が、幸恵さんのことを・・・。」
「知りたい?今頃、きっと屋敷にみんないるはずだよ。
まぁ・・・2日目には別の屋敷に移っているだろうけど・・・。」
「何?何があったの?私だけ知らないことがまだあるの?
ひどいわ、教えてよ。教えてください。」
千裕はふっと笑みをうかべると、ひかるの唇に自分の唇を押しあてました。
「ん・・・うぅ・・・」
「うはぁ・・・ふむ。心の準備してもらってから話そうと思って・・・。
三崎裕樹。ひかるには裕昭って言ってたかな。
あの人、俺たちのお兄さん。つまり4兄弟の長男。
だからいくら裕文がおまえを拘束しようとしても、兄さんと兄さんのお嫁さんがいっしょに住んでる限り、盗聴とか、のぞき見くらいしかできないのさ。
まぁ、幸恵さんの部屋の中には何もなかったらしいから、裕文は他人に迷惑をかけようなどとは思ってなかったってことだね。」

