小さなバッグに最小限の必需品のみを入れて、所持金500円。

それでお屋敷を飛び出してきたひかるでした。

どう考えても、あと数年は自分がお荷物でしかないと思いました。

どうして、もっと大人になってから、拾ってもらえなかったのかと・・・。



うれしいことはうれしかった。感激した。感謝した。
有り余る親切と愛情・・・。
でも、与えられれば与えられるほど、私にはペットくらいの役割しか千裕を支えてあげられない。

使用人として、千裕の結婚式や子どもの姿を素直に祝福できるのだろうか?

考えれば考えるほど、悲しくなってきて、そのうち自分がとんでもない嫌がらせをしてしまうんじゃないか?そんな想像までしてしまったこともあったひかるでした。


千裕が笑顔をくれるうちに、旅立とう・・・お金は何とか父さんを捜し出して、返せるだけ返して、足りない分はお給料の高い業界で稼ぐ。

稼ぐ勇気が出たもの!ドレスといっしょに身に付けた、イヤリングだけを思い出にもらってきたひかるは、それを見ながら、つぶやきました。

「これは私がもらった星です。・・・幸せになってくださいね。」


1時間ほど歩いて、歩き疲れたひかるは、たどりついた大きな公園のベンチに座り込みました。

そして、だんだん眠くなってきて・・・。



ふと気がつくと、ベンチに横たわっていました。
体の上から男物のキルトジャケットがかぶせてあって、ひかるはあわてて飛び起きました。

キョロキョロとあたりを見回して、上着を着ていない人がいないかどうかを確認しました。

公園中央の小さな池の前で座っている男性・・・?
マフラーはしているのに、上着を着ていませんでした。



そうっと近づいて、その男性の背後にまわると、その男性はスケッチブックに鳥の絵をデッサンしているとわかりました。



「あのう・・・すみません・・・。つかぬことをお伺いしますが、この上着の持ち主の方ではありませんか?」


声をかけられた男性はふりかえると、


「風邪はひかなかった?声をかけたけど、すごく疲れてたようだったから上着だけかけさせてもらったんだけど。」


「えっ!?」