ひかるは毎朝、裕文の朝食を作り、時折、お弁当も持たせて見送っていました。


「昨日は遅かったんだから、無理しなくていいのに。」


「ダメですよ。裕文さんの食生活じゃ、餓死かメタボのどちらかしかないですから。
私は大丈夫。嫌いな勉強しに行かなくてもいいし、補習もない。
ヒマなんですから、働かないと。ね。」



「そんなに学校へ行きたい?千裕のいる学校へ。」


「私は行きたいなんて言っていませんよ。行かなくていいから楽だと言ってるんです。」


「学校はちゃんと卒業させてあげますから、心配いりません。
千裕が結婚して、親父のあとを継げば、僕が学校を引き継ぐつもりですから。」



「そうですか・・・。」


「そろそろ軟禁生活にもお疲れでしょうから、このビル内のフィットネスでも行ってきたらいかがです?
やってみる気があるなら、僕から話を通しておきます。」


「いいんですか?部屋から出ても。」


「ビル内ならかまいません。僕は君に恨みを持ってるわけじゃないし、成り行き上、自分の意思で面倒見てるだけです。
前にも言ったでしょう。君の家族の借金とか僕との取引上には何ら存在しないから。

ちょっと気に入らないとすれば、君がこういう環境に置かれていても、千裕を信じていること。」



「私はべつに・・・。」



「まあいいけど。じゃ、フィットネスクラブに話しておくから、午後にでも行って来ればいい。
じゃ、行ってきます。」



「いってらっしゃい。・・・・・((お屋敷の様子がぜんぜんわからないのが悔しい。
みんなどうしてるんだろう?))」



ひかるは午前中に、洗い物、片付け、掃除、洗濯をこなして、裕文に言われたとおり、
フィットネスクラブを訪ねてみました。


受付で会員手続きをしていると、インストラクターらしき男性が挨拶しました。


「はじめまして、こんにち・・・・・ひ、ひかる?」


「はぁ?」


ひかるが名前を呼ばれて顔をあげてみると、家出していなくなったひかるの兄、信之でした。