杏はもうこの世界にはいねーのにな………。
今でも、一目で良いから逢いたい。
後ろ姿だけでも良いから、逢いたい。
「夢の中だけでも逢えねーのかよ………」
一目だけで構わない。
この半月……一度も少しでも頭から杏のことが離れたことはない。
ベッドにもたれ掛かり、床に座ったまま……窓の外から部屋を照らす月を見上げた。
雲が動き、月を隠す。
月明かりが遮られ、部屋を真っ暗な空間へと変えた。
カタン…………
「誰だ?」
出入口の方で、何か物音がしたため…目を凝らす。
すると突然、
甘い桃の香りが俺の鼻を霞めた。
「え…………?」
目を見開く。


