伝う玉梓【短編】

はっきりと覚えていない夢の印象と、『憑き物』という言葉の妙な符合感に胃のあたりがドクリとした。


知靖と今後の仕事について少し話したあと、落ち合った人の少ない喫茶店で少し遅い昼食をとって店を出た。




午後に差し掛かる辺りはまだまだ明るいが影が伸び、なんだか急に夕方にむけて支度を始めているように見える。



「今日も図書館の看板娘に会いに行くのか?」

「うるさいな」

帰りすがら顔を出そうかなどと考えていた所を掬われたような問いかけについぞんざいな調子で返すと、知靖は実に愉快そうに声を上げて笑い、力の加減を知らない調子で僕の肩を叩いた。
今の返しで、あまり出歩かない僕にしては珍しく足繁く通っていることが言わずともばれてしまったようだ。


「まったく、お前が文車妖妃に岡惚れとはねぇ」


知靖のヒヒヒと笑うその顔を少し睨むと、知靖は半分程その笑いを引っ込め肩をすくめると、手を後ろ手に振りながら僕に背を向け歩き出す。
その背が見えたと同じくらいに僕も反対側へと歩き出した。